VATE:それって実はシンプルなことですよね。
すごくシンプルですよね。でもそれって本質的に素晴らしい事だなと思うんです。都会って良いか悪いかはちょっと置いておいて、やっぱり便利になり過ぎましたよね。物が溢れているから、選ぶことで何でも出来る。こっちは何もないから考えないといけない。選択肢すらないから工夫しないと、ないからこそ段取り良く生きていかなきゃいけないんですよ。人に何かを助けてもらうってすごくありがたいことで、そういうのに触れられるというのも良いなぁと島に移住して2日目か3日目の日記でそんな事を書いているんですね。細かい事を言ったら、苦労したり、不便な事もいっぱいあったけど、嫌だとか戻りたいというのは無いですね。
VATE:充実、されてるんですね。
なんかリアルだなぁってすごく思うんです。生きてるなぁって。朝、海を見ながら役場に向かうとか、雲がこう流れてるとか、すっごい星がきれいだとか。塾の生徒に喋りながら、俺泣いちゃったとか(笑)。生徒も泣くとか(笑)。ああ、なんか生きてるなあって。
VATE:とても素敵な暮らしをされているんですね。
昔、日本にあったすごく素敵な暮らし方とか、人との関わりとか、日本人が大事にしてきたものとか、それがせっかくあったのに日本人は頑張りすぎちゃって、頑張ってきた方向が当時は正しかったかもしれないですが、今度は物だけが溢れてきている中で大事にしてきたものが無くなってきているんじゃないかという気がするんですよね。そういうのがちゃんと残っている所でそれに気づかせてもらった。それはすごくありがたいなと思ってます。
VATE:それに気づけたのって大きいんでしょうね。
いまお話している事ってずっと東京にいたらやっぱり言ってないと思うんですよね。そういう意味でもより本質的なところに近づけているんじゃないかという感じはあります。
VATE:島に移り住まれたわけですが東京でやっていた教育と今は違いを感じたりしますか。
しますね。今、僕が島で何をやってるかと言うと、生徒が地域の人と関わりながら「地域にある課題」を学ぶということをやってます。それは抽象的な課題ではなくて、ものすごく具体の、具体的な事案なんですね。少子高齢化がすすんで、人口が減っている、もう一次産業は厳しいぞとか。つまり、ここをフィールドに勉強が出来るという。そこで勉強してもらう、というのがこの島の強みなんです。島は社会の縮図であって、社会の全体観がわかるんですね。一個一個パーツがバラバラなのではなくて、繋がりがわかる、というような事を大前提としてやってます。
VATE:島だからこそ出来るんですね。
中央にいる人は自分たちのやっている事が一番素晴らしくて、このコンテンツ・ビジネスモデルはすごいよ、地方のためになるよと言うんですね。僕自身もそういうのをサービス化して、お金を頂くという事をやってましたけど、あんまりよくないなぁと気づいたんですね。
VATE:どんなところが良くないんですか?
例えば僕がここに来るまでにやっていたプログラムも、柔軟性はあるんですがどうしても自分たちが管理しやすいように勝手にアレンジしないで下さいねってなるんです。僕も実際にそう言ってました。でも地方からしたら、いやもっと地方の現実にあわせてカスタマイズしたいという要望になって当然なんですね。もっと言えば、地方の人の眼になって物事を提供しないといけない。僕が東京で教えていたプログラムは全く否定しないし、いまでも素晴らしいプログラムだと思ってますが、地方に住んでみて、現地の視点でアレンジしなきゃいけないんだと気づけたことは僕にはすごく大きいんです。毎年試行錯誤して、どんな風にすると地域の担い手や地域の作り手を育成できるかという、そういう仕立てに出来るように住みながら、教えながら、考えながらアレンジしてるんですね。それが素晴らしい事例になれば、それ自体を展開していけばいいかもしれない。実感としてそこに気づけたのは大きいなと思います。