熊谷榧 作 / 焼締の猫

VATE:飲み物というとあまり天然って感じがしないですけどね。

 

例えばソルティ・ドッグってどんなバーでも年中絶対あるじゃないですか。そう思われてますけど、美味しいソルティ・ドッグを作れない時期はあるんですよ、やっぱり。それなりのものは出来ますよ、でも出来れば出したくないという時があるんですね。

 

VATE:それはどういう理由ですか?

 

農産物ですね。むちゃくちゃ酸っぱいグレープフルーツしか手に入らないとか、酸味も甘みも抜け落ちたような物しか手に入らない、そんな時期が絶対あるんです。そういう時にはやはり使いたくないんですね。

 

VATE:他にもそういうものはありますか?

 

スクリュードライバーはもっとそうですよね。オレンジは美味しい時がすごく少ないんです。ジントニック、ジンリッキーとか、柑橘系使う物はみんなそうです。ジントニックはまだ甘みが足されますから、どうにかまとまってきますけど、ジンリッキーはライム勝負なんですよね。ライムが美味しい時しかやっぱり作りたくないんですよね。

 

VATE:なるほど。だからメニューを置いてしまうと足枷になると。

 

ハマチが出回らない時期にハマチくれと言われて、今泳いでませんって。そっちの方が本当だと思うんですね。それを胸をはって言える店がいいですね。だから、できるだけ足枷になるようなものはしたくないんです。

 

VATE:ワインはどういうコンセプトで選んでおられますか?

 

まず自分が好きで、自分が心から出したいと思うワイン。ワインって結構いろいろ経験すると、本物と偽物の差というのがわかってくるんですよ。ボルドーというのは本来こうなんじゃないかとか、シャンパンはこうなんだ、とか、そういう思いとか確信というものが、どんどん出てくるんですね。

 

VATE:最近のお客さんはこういうのを好む、とかそういう視点はあるんですか?

 

そういうマーケティングみたいなものはね、悪だと思っているんですよ。とにかく自分は本当に自己中心的なんでね。自分の名前で看板しょってるので、それをさしてもらってもいいかなと思ってるんですけど。

 

VATE:柳野さんがいいと思ったワインしか出さないと。

 

とにかく僕はこれがいいと思ってますというワインでないと、出す気がないんですよ。なんですけども、正直、今この不景気なので最近は自分がこんな物はダメだと思ってるワインも出しているんです、実は。

 

VATE:え!そうなんですかっ。

 

今日、実はグラスワインはこれを飲んでもらうしか無いんです、すいません。こんなワイン僕は大嫌いです、と言って出してます(笑)。