VATE:そのロゴっていうのは、どのように考えてつくられたんでしょうか。
単純に、自分が出来ることを最大限に出そうと思ったんですよ。まずひとつとしては、ロゴを200点作ろうと思ったんですね。そこから選んで、3点ほどを提出する。自分は納得出来ますよね。というのがひとつあって、200点作って、だあーっと床にまいたわけですよ。
VATE:なるほど。
そうすると、何かが足りなかった。
というのは、新しいものを作ろうという意識がベースにあるんで、とんがったデザインが多かったんです。すごく個性的であるとか、時代の1歩向こうに行ってるとかっていう意識。でも並べて見てみると、違う、と。
VATE:なにが違ったんでしょうか。
グリコらしいって何かと考えると、やはり「おいしさと健康」、言葉に代えたら「お母さんの優しさ」みたいなものじゃないかっていうことに気がついた。もうひとつはヨーロッパ、アメリカの菓子とか食品の企業のブランドロゴをいろいろ見てみたらね、スクリプトが圧倒的に多いんですよね。
VATE:手書きっぽい文字ですよね。
スクリプトというのは、元々手書きで書かれてたもの。だからそのことと、こっちのイメージとが、ふわっと合って、こう、ぴゅ~と筆記体で書いてみたんですよ、鉛筆でね。そして、コピーで拡大すると、とてもよいイメージになった。
VATE:と、いうことは200点つくった後の201点目だったということなんですね。
そうですね。200点出して、見て、欠けてるものを感じることができた。そして生まれた、ということなんです。
VATE:奥村さんはその後会社を解散されますね。
ええ。
VATE:大手企業から仕事がどんどん入って、大成功じゃないですか。
なぜ解散されたんですか?
僕は早くからね、デザインとは素晴らしく面白い仕事だと思ってたんですよ。もう博打の比じゃないと。企業のすごいお金を使って、すごいデザイン実験をしてるわけですから(笑)。
VATE:確かにその通りですね。
こんな面白い仕事は他に無いというので、ずっとやってきて、ある時ふと思ったんです。企業の仕事ばかりをやることが僕のデザインだろうか?と。