VATE:えっ。中世ヨーロッパなんてどこから出てくるんですか?
はじめはあっけにとられましたよ。なにか間違えがあったのかと思っていました。
ところがそうではなく、彼等が言うには普通の人に君たちの言うことは分からないからだと説明されたんです。驚きました。なんで中世ヨーロッパなら意味が通るのか、それとも説明不足なのか、表現がまずいのか、楽しさが伝わらないのか、自分の能力不足なのか、いろいろ悩みました。先生はもちろんほったらかしです。好きにしていいよって言ってました。
VATE:確かによくわからないですね。でも実際にはよくあることなんでしょうね。
提案して行く中で建物の内部の手すりに全て花柄を入れろとか、床は大理石調や石畳みたいにしろとか、天井は空の絵を描けとか、もうコンセプトもくそも無かったですね。挙げ句の果てには社長さんからは「おれがこの物件のオーナーや。おれの言うことを聞け!」っていうもんだから、もう腹が立ってきて打ち合わせはほとんど喧嘩でした。
別にヨーロッパがダメっていうことではないんです。ただなぜヨーロッパなのか?ってところに疑問があったわけです。
VATE:でも言うことを聞いておくほうが、仕事としてはスムーズですよね。
もちろんそうです。周りからいろいろな言葉をかけられましたよ。「無難だから」「こういうのはお客さんが喜ぶんだ」「ヨーロッパ調な方が高級感があるもんなんだよ」「アメリカではこれが流行ってるんだよ」って。
「なんじゃそりゃ」って思いました。一度もうなずきませんでした。
VATE:頑なですね。でも、衝突も多くなるんじゃないですか。
そうです。でもこれは自分の将来への試練だと思いました。毎日戦いでした。そうして出来たショッピングセンターは思っているモノとは全く別ものでした。色や形も中途半端です。だからといって恥ずかしくはありませんでした。そういうふうに思い続けてきた事がひとつの形になって存続し続けているのは悔しくもあり、反面その流れの中で出来たのが有り難い事だったからです。
VATE:なるほど。
この仕事が出来たのは幸せでした。この時のことを決して忘れずにいようと強く思えるのは大きな成果だと思っています。このショッピングセンターの仕事を終えて元請さんの社長さんに居酒屋へつれて行かれて言われました。「お前が先生の事務所の頭を取れ。」この言葉は本当にうれしかったです。
VATE:何とか仕事をやり通して、それが終わった時には、俺がここの頭になってやる!という気持になられたんではないですか?
いや、そんな気持ちは全くなかったですよ。ただどう言う形であれ認めて頂いたのはうれしかったです。