VATE:なるほど。
一方で、自分を取り巻く環境に対する疑問もわいてきたのです。無我夢中で走って来て、少し自分のこと、周りのことを冷静にみれるようになった時、より本質的な課題に直面した、という感じでした。
VATE:本質的な課題とは?
一言でいうと流通のあり方ですね。和装の世界って、メーカーの力が弱いんですよ。製品をつくるブランドとしての発言力が、ないに等しい。モノに商品としての付加価値をつけているのは全部、販売業者の方なわけです。そのことが、無性にひっかかりはじめたんです。
VATE:付加価値、ですか。
たとえば、販売価格の決定ひとつをとってもそうなんです。和装品は必要とされる絶対数が減ってきている現状を、技術の希少性を必要以上に謳って、単価をあげて埋め合わせようとしていました。つくる現場には酷な話です。
VATE:けっこう大きな問題ですね。
そうなんです。問題がちょっと大きすぎて、容易に解決できることではない。だからそれについては、日々の中で少しづつ、メーカーとしての価値の拠り所をシフトさせていく必要があるな、いう風に考えるようにしていましたね。いずれ、和装とか京都の西陣織とかの看板に依存せずとも、つくっているモノの価値を見いだしてもらえるようにならんとダメだな、と。
VATE:なるほど。
決して和装や西陣織を否定する、ということではないんです。つくり手として、むしろ和装の染織技術や西陣でのものづくりのノウハウに、同時代性を持たせたり、或いは昇華させなければな、と決意を新たにしたわけです。
VATE:決意を新たにされて、その後どのような行動を起こされたのですか?
それですぐに何かを始めた、というわけではなかったです。ちょうどその頃、和装業界を取り巻く環境が激変し始めたので、むしろその対応に追われてました。和装の売上が激減しましたからね。だからそれを補うために僕が任されていた分野を伸ばさないとって思っていました。
VATE:大きな変化だったんですね。
それまでは業績に対するプレッシャーってそんなに感じてなかったんです。ですがそれ以降は予算必達みたいに眉間にしわ寄せて、営業数字を背負い込んでましたね。結構、自分で自分を追い込んでいってたと思います。