Lost Memories

VATE:江原さんはその後の活動の中でLost Memoriesという一連の作品を発表されていますが、

これはどういったものなのですか?

 

Lost Memoriesは私の祖父がアルツハイマーの疑いがあると診断されてから8年目を 迎えた生前最後の夏に、我が家で繰り広げられた介護生活の日々を写真に収めたものです。

 

VATE:どうして写真を撮ろうと思われたんですか?

 

祖父の中から家族と共に過ごした記憶が一つまた一つと姿を消すなかで、不安を抱えながらも日々自宅での介護を続けた祖母の姿を通し、共に同じ悩みを抱える方々の一助となるものを残したい。そんな想いからこの撮影を始めました。

 

VATE:撮影で苦労されたことは?

 

身内を被写体に選んだため、現場で何かが起こった際、果たして自分は撮影に専念すべきか?それとも家族の一員として自分も介護に参加すべきか?と心の葛藤を繰り返したことでした。実際、撮影期間中に祖父が一度、行方不明になったことがあり、そのときは撮影そっちのけで捜索活動に奔走しました。

 

VATE:江原さんは写真の中に自分のアイデンティティをどのように示されるのでしょうか。

 

僕の場合、ふとした出会いから被写体の方に魅了され、それがきっかけで撮影を開始することが多いのですが、その際、自分の感動を引き金にシャッターを切ることによって、自分にしか撮れないものを生み出したいと願っています。

 

VATE:カラーとモノクロの使い分けに関してはどうでしょうか。

 

カラーとモノクロの使い分けは、人間の内面に潜む感情などをテーマに選んだ場合はモノクロ、社会や文化、コミュニティーなどをテーマに選んだ場合はカラーといふうに使い分けています。

 

VATE:その理由とは?

 

カラーで人間の感情を写し出そうとすると、場合によってはその場に存在する色彩によって写し込むべき感情のムードがかき消されてしまうことがあるからです。この場合、周りの情景を正確に写し込むことより、被写体の感情を正確に写真に写し込むことの方が重要だと僕は思います。

反対に社会や、文化といったものをテーマにした場合は、その場に存在知る色彩はそれぞれのテーマを反映する重要な要素であるので、カラーにて撮影する必要があると僕は考えます。

 

VATE:江原さんが好きな写真家は誰ですか?

 

僕の大好きな写真家はアメリカ人のマグナムフォトグラファー、ユージンリチャード(Eugene Richards)です。

彼の貧困や麻薬などアメリカの抱える闇の分部に鋭くカメラを向け続けている姿勢、写真の中に写真家の存在が全く感じられらない独特の作風、写真を見る人にあたかも自分が現場を直に目撃しているようなそんな錯覚さえ与えるほどの強さを秘めた構図取りなど、見る人の心に強い感銘を与える写真を写し続けているからです。