作品から

VATE:教授には話されたんですよね?

 

ええ。教授からは「カメラを持参し今回の旅から君が見たものを、そのままレンズを通して形にしてきなさい」と言われました。

 

VATE:なぜカメラを持て、と言われたんでしょうか。

 

真の理由については、よく覚えていません。ただこれがきっかけで、今後写真の世界にのめり込んでいくことになったのは確かです。

 

VATE:アウシュビッツにいって、なにを見て来られたんですか。

 

ポーランドでは、ナチスの強制収容所の跡地で、現在はミュージアムとなっている2つの施設(アウシュビッツとビルケナウ)を見てきました。施設内には、ミュージアムとはいえ、ガス室、処刑場、独房、など当時のものがそのままの状態で残されており、言葉ではあらわせない異様な雰囲気が漂っていたのを記憶しています。

 

VATE:そこで形にされたものとは何だったんですか。

 

残念ながら「これだ」と言えるものを得ることはできませんでした。見る人にこの場の雰囲気を伝えたいと、無我夢中で撮り続けた10本のフィルムが手元に残ったぐらいです。

 

VATE:見たものを形にする、とはどういったことでしょうか?

 

残念ながら、うまく答えることができません。ただ、このアウシュビッツでの体験を通し、撮影者として自分の報道に対する責任感のようなものを始めて意識することとなりました。

 

VATE:その当時の江原さんにとって、写真とはイコール報道だったのですか。

 

写真=報道、といった訳ではなかったのですが、見る人にできるだけその場の情景が正確に伝わるような写真を撮りたいと、意識したはじめての撮影でした。

 

VATE:大学卒業後はどうされるつもりだったんですか。

 

大学の4年生になった当初は、人並みに自分も就職しようと、様々な企業に足を運んでいました。ただ、企業説明会には行くものの、果たして自分がそこで何をしたいのかが、はっきりと見えてこず、回を重ねるごとに憂鬱な思いに包まれていきました。