VATE:でもそれだけでは食べていけないですよね。
そうですね。その頃は平行して、コーラスの録音の仕事を少しづつですが、するようになりました。でもやはりプロの世界に入ってみたら、自分の甘さが露呈しました。初日に言われましたね。『君は25年間、いったい何をやってきたんだ?』。その通りだと自分でも思いました。磨きをかけていない歌だったのは事実でしたから。必死に練習して自分を追い込もうとしてました。
そして、現場で知り合った関係でライヴにもコーラスとして立つようになりました。今から思うと、一瞬一瞬の音に自分の全てをかけている人達の渦の中に退職後すぐ飛び込んで行けた事は、本当にラッキーでした。プロの現場に飛び込めば、自分に何が足らないのか、自分が出来る事は何なのか、瞬時に分かります。
VATE:なるほど。頭で考えていても、仕方ないですもんね。現場に飛び込めば、厳しい現実に向かい合わざるを得ない。
でも、本当に試行錯誤の日々でした。どうなりたいのか、分からなかったんです。本物の音の渦の中にいるからこそ、これといった方針を打ち出せない自分が腹立たしく感じられて辛い日々でもありました。今から思うと、OLを辞めてみたものの、自分が何かを創りだせるはずだと信じる事ができなかったんです。
VATE:自分を信じられなくなるコトはとてもしんどいですよね。その後、どう打開されたんですか。
もっと世界を広げる必要があると思いました。何かを創り出そうとしている同世代の渦の中に身をおいて自分を見つめようと思いました。丁度、貯めていたお金も音楽に湯水の様に使ってなくなりかけていた時で。そんな時、見つけたんです。そんな人が集まっていそうな音楽バーがあったんですよ。アルバイトする事に決めました。それは大正解でした。
VATE:そのバーでバイトして何が大正解だったんですか?
音楽が大好きなマスターがいるその店には、音楽を愛してやまない人達が集っていました。レコード屋さんや、バンドマン。熱心なリスナー、そしてアルバイターの中にも、劇団員、ミュージシャンなどなど。歌に悩み、視野が狭く、神経質になりかけていた私にはとても貴重な経験を持った人達の集まりでした。