VATE:コピーを書くにあたって、学生時代に読まれていた哲学の本は役にたちましたか。
学生時代に読んでた哲学の本は10年ぐらいは読まないようにしようと思ってましたね。
VATE:え、そうなんですか。
哲学の言葉と、世の中に流通している言葉は違いすぎるんですよ。哲学の言葉で考えると世の中に向けて出す柔らかい言葉の仕事は多分できないと思って封印していました。当時よくやっていたのは雑誌をいっぱい読むことです。
VATE:雑誌ですか。
当時は例えば若い女性だったらこういう雑誌がある。40、50代向けの人にはこういう雑誌がある。若い女性の中でもこういう好みの人はとかいろいろ分かれていて。だから世の中にこういう種類の人がいるっていうのを理解するのには雑誌がすごく役立ったんですよ。
VATE:なるほど。
企業側もこの商品のお客さんは雑誌で言うとこれだなって全部言えたと思います。今でいうインターネットでターゲティングをするみたいな事に近いのが雑誌という役割だったんですね。だから、そういう種類の人は何が好きなのかな。車で言うとこういうのが好きなんだとか、そういうのがよくわかったんです。なので、雑誌の中にある柔らかい言葉を自分の中に、今で言う原田AIにどんどん食べさせて、自然にChatGPTから出てくるような状態にしないと哲学の言葉が出てきてもこれ仕事になんねえなって思ってました。
VATE:ある意味、今よりはもう少し人間がわかりやすかったというのか、、、
90年代後半は情報量は今ほどはないけど切り分けられた雑誌の世界があって、テレビ番組もどういう人が見てそうだっていうのがあったと思います。
VATE:ある意味分類しやすかったんですね。
どういう人がどういう好みでどういうものを買ってるっていうのが、わかりやすかったし、何か決まってたんだと思うんです。極端に言えば、私はこういう人間だから、これを買うっていうのが何となくあったし、みんなそれに合わせて物を買ってたような気はしますね。だから、そういうことを一生懸命理解しようとしてましたね。最初の何年か。
VATE:その後の話を聞かせて下さい。
最初の5年ぐらいで大きな出来事が2つぐらいあって一つは自分が書いたコピーが派手な形で世に出たっていうのがあったんですね。やっぱりテレビCMに使ってもらうとみんな知ってるって状況になりやすくて。実はこの2022年からもう1回クライアントさんが使い始めてるんですが、UCCブラック無糖っていう、黒い缶の商品です。
VATE:ああ、有名ですね。
コピーは、「原材料、コーヒー。以上。」ってやつです。クライアントさんがいいねって褒めてくれて、長く使われたことで自分の中でコピーライターの仕事ってこういう事だなと思えたのが一つです。
VATE:もう一つは?
もう一つは自分の仕事ではないんですけど、近くのチームがやってて、それを見てすげえなと思ったというのがあって。Appleにジョブズが帰ってきてiMacを出した時に「think different」のキャンペーンを始めたわけですよ。あれを見て衝撃を受けたんですよね。