VATE:なるほど。
時は、ただひととき一時が積み重なっているだけで、先の流れなんて本当はどこにも無いんです。もしあるとしたら、自分の「今」をどれほど濃密に、輝いた時間にして、それをどう重ねるか。それが自分の「時の流れ」になるんだと思うんです。
あの震災で、私も命を落としてもおかしくなかった。親友も死に、街も壊れて、跡に残された意味を突きつけられ、悩み抜いた。そして、あれは「この今を生き抜け」というメッセージだと思った。あれ以来、私の信条は、生き抜く、になりました。生き抜こうと思ったら、自分が自分で在れる場所に身を置かなきゃいけない。その場所が、私にとっては音楽だったんです。こういう気持ちが、ずっと真ん中にあるから、不安もあるけど、やっていられるのだと思います。
VATE:from now onとはどういう想いでつけられたんですか。
※from now onは2004年当時奥本氏が活動していたグループ。2007年に、次のスタートを切るために発展的解散をされました。
from now onとは「今ここから、この時から」という意味です。どんな人も、気づいた時が新たなスタート。いつから、とか、年齢とか、関係ない。いつでも、誰もがスタートラインに立っている。私たちの音が、何かのスタートになるなら幸せだと思っています。さ、明日からがんばろ、でも、何か衝撃的な瞬間になるのも良い。いつでもがスタート。そういう意味を込めています。
VATE:そういう想いが込められていたんですね。
そうですね。今はもう二度と戻って来ない、この先なんてホントは何にもない、ていうことに気付いて、明日からひととき一日を大切に生きてくれる人がいたら、嬉しいなあ。私たちの音楽を聞いて一人でもそう思ってくれる人がいたら、from now on が存在する価値はあるんだと思います。
VATE:いま音楽教室というのもされているそうですが、
教えるというのは生活の糧を得る、という以外になにか得るものがあるんですか?
得るものというか、"先達に学ぶ"ということをもっと今の人に知って欲しいのです。私に絶対音があることや、曲を聴いてすぐコードや譜面が書けるのを、天才、とか凄い、の一言で片づける人がいますが、それは逃げ。
私は、音に対しては徹底的に学んできた。厳しく指導されてずうっと取り組んできたし、今もそうしてる、というだけのこと。学ぶことの自分にとっての重さ、教えてくれる人の大事さを知って欲しい。
VATE:教えるってでも、とても難しいことですよね。
難しいですね、毎日試行錯誤。人間同士ですから、ぶつかりもあるし。でも、これが正しいという教え方も、どこにも無いんです。なので色々試します。前回言ったことより良い方法を見つけたり思いついたらすぐ別の方法に行く。教える側はこの柔軟性が必要だと思います。