photo by YOSHIDA YOKO

VATE:アップル入社後はスムーズに事が運んだのでしょうか?

 

「顧客の声を聞く」ということは思ったより大変でした。テレビ局がファンに対して行う場合のファンサービスは、ある意味、顧客の期待値がゼロに近い部分からの「加点方式」です。期待を裏切らないようなサービスはもちろん大切ですが、基本的にはお客さんにとっては「ラッキー」な出来事です。

一方、製品サポートについては、購入した製品に何らかの問題点が生じたり、使い方がどうしてもわからなくて困った場合に始めて、コミュニケーションがスタートします。このマイナスを何とか挽回したうえで、プラスの印象を与えたところで終了しなくてはなりません。そもそものスタートの位置が違うのです。

 

VATE:アップル社の社風はいかがでしたか?

 

当たり前ですが日常の仕事レベルでは日テレとは全く社風の違う会社でした。アップルに入社後初めてメールを送受信したら、「すでに」たまっていた数百件分の英文も含めたメールの洗礼を受けました。組織も蜘蛛の巣型の組織で年功序列も関係なく、誰もが気軽に社長宛に直接メールをしてアドバイスを求めます。また、直属の上司がシンガポール常駐のオーストラリア人になり、現地との英語での電話会議が日常になりました。アップル入社前に、日テレを退職するからには「IT、英語コミュニケーション、欧米型のビジネス、トップのリーダーシップ、カスタマーメリット」の5つは最低限、アップルで身に着けようと思いました。

 

VATE:ずいぶんと欲張りですね(笑)。

 

しかし、このうちのどれか1つでも身につけることができ、今後の「武器」になると信じつつ、もう一度「テレビ」のことを考えてみようと思っていました。ただ一つ、予想外だったのは、この5つに入っていなかった「仲間」というものを、最近よく意識します。アップルを退職後知ったのは、日本の会社と違って、アップルには多くの若い退職者がいて、バリバリ外資系企業や自分で興した企業などで働いています。業種や職種の垣根を越えて、互いに連絡を取り合って協力しています。これは日テレ在職中には全く気づかなかった、新しい意味での「コミュニケーション」でもあります。

 

VATE:「仲間」との業種や職種の垣根を越えたコミュニケーションとはどういったものですか?

 

アップルはほとんどの社員が中途入社で、さまざまな業種から集まっています。そして、早かれ遅かれ大多数の人が数年でアップルを卒業していきます。本来、ひとつの企業の中で終身雇用制度のもとで働いていたら、おそらく顔を合わすことのなかった人たち(ビール会社からきた人、石油会社、コンサルティング会社、放送局・・・)が、一同にアップルに集い、ともにプロジェクトに携わります。誰もが、それぞれの業界でプロフェッショナルとして一線で働いてきた人ばかりです。さながら、異種格闘技、いや異業種交流会のような雰囲気となります。